【赤い侍】

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それから暫く俺達二人はあてども無く歩き、尾上の松と俺は無駄話に花を咲かせた。 聞いたところによれば彼は、役柄と素では全く性格が異なるらしい。 とは言え、その片鱗すら見せようとはしないあたりが役者根性だ。 …まぁ、何度も言うようにここは少なくとも舞台じゃないのだが。 やがて尾上の松が、ふと足を止めてこちらを振り向いた。 「そろそろ一休みしたいところだが、あいにく先ほどのような大岩すら無いな」 「ていうか、かなり喉渇いたんだけど。どっか水飲めるとこないのかな」 「半刻ほどは歩いたと思うが、まるで無いな。まさかここは、違う星なのではあるまいな」 「体も浮いてるしな…って待て。もしそうなら、とっくに息できなくなって死んでるぞ」 「なるほど。という事は、その線も無しか」 そんな風に話をしている間にも、どんどん喉が渇いていく。 ―と、その時。小川の水が流れるような音が、やや遠くから聞こえてきた。 「あっちの方、なんか水あるみたいだぞ」 「まことか。行ってみるとしよう」 俺達は、水音らしきものに誘われるように駆け出した。 ―果たして、その方角には小さな滝と水の溜まり場があった。 「でかしたぞ。さあ、早く飲もうではないか」 「ああ、もう我慢できないぜ」 男二人、両手いっぱいに水をすくってがぶがぶ飲むという図。 しかも一人は侍だ。傍から見れば不思議な光景だろう。 「よし、少し体を休めて、それから出るとしよう」 そうだな、と尾上の松に頷こうとしたその瞬間― 俺達の目の前に想像を絶するモノが現れた。
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