序章

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かつては王であったその男も、国を失ってしまえばそこには、権威もプライドもない。 亡国の王とはいえ、それは只の一人の人間に過ぎないのだ。 国家の集合体、その頭角というものは、多くの手足があって始めて成り立つものだ。 一人では何も出来ない。哀れな子羊に等しい存在だ。 血まみれの男は目の前を凝視していた。 その先には一人の若者がいた。 と言っても、正確には若者という言葉は適切ではないだろう。 相手は人間よりも遥かに長い寿命を持っているのだから。 だが、見たところはまるで青年だ。 そんな彼の、温度を感じさせない双眸が静かに光を放っている。
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