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それでも現実は残酷なものだった。
次第に背後から迫ってくる足音。
それはどんどん近くなっていく。
焦るのは気持ちばかり。
肝心な足は、もう言うことを聞いてはくれなかった。
もう、ダメだ……。
少女は足を止め、ゆっくり振り返った。
腰まで伸びた黒い髪が夏の風に煽られてふわりと舞い踊る。
顔に被ったその髪を左手でかきあげると、その表情が顕となった。
その瞳には諦めと、仲間を守ったことへの満足感が込められていた。
相手は少女の哀愁漂う表情に少しだけ驚くとにやりと口の端を吊り上げ、人の悪い笑みを浮かべた。
少女が逃げることを諦めたとわかってゆっくりと歩み寄る。
彼の手が少女の肩へと迫る。
少女は悔しそうに目を閉じ、訪れるであろうその瞬間を待った。
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