少女

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   夜の林道。木々の隙間から月の光が差し込み、視界の確保にはさほど困らない。人の通りは滅多にないため、人知れず真剣を抜くにはおあつらえ向きの場所だ。  薄明かりに照らされるのは制服姿の美咲と稽古着姿の男。  美咲の着衣は、長い黒髪に合わせたかのような黒の学制服。襟と袖には白いラインが入り、胸元の赤いスカーフが夜闇の中に唯一の色を示している。  既に二人は刀を抜き、互いに間合いの外から、剣尖を相手の喉元に向けて対峙している。  美咲が中段に構える刀。刀身は二尺三寸と常寸だが、宿す光は紛れも無く業物のそれである。刃が跳ねる淡い煌めきは生娘の柔肌のように白く透き通り、対峙する男はその美しさに魅入るように目を丸くし、ゴクリと唾を飲む。 「なるほど……その刀が、知る人ぞ知る大業物『月花』ってわけか」 「ああ。贋作などではない」  男が呟き、美咲が頷く。 「疑わねえよ。ひと目見ればコイツが相当な物だってわかるさ……たまらねえな」  クク、と喉を鳴らして男が笑う。美咲を斬り、『月花』を己が物とする瞬間を思ってのことだろう。随分と気の早いことだ、と美咲は思うが口には出さない。  代わりに、低く落ち着いた声で、問う。 「そちらこそ、よもや作り話ではあるまいな」  美咲の静かな問い掛けに、男の口元から緩みが消えた。
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