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「当たり前だ。『雪花』の件、先程話した内容に嘘偽りはない」
男の返答に、美咲はただ、そうか、と短く頷く。男の話を信じ切っているでもなく、完全に疑っているわけでもない。むしろ事の真偽にこだわる様子もない。そんな反応だ。
「気に入らねえな……まあいい」
男がスッと目を細めると同時に、彼の周囲を覆う空気が一変する。もはや問答は無用とばかりに口元を引き締め、斬り合いに臨む表情に変わる。
対する美咲は表情を変えずにこれに応じる。わずかに強まる手の内の感触を自覚しながらも、努めて静かに立つ。
こうして、静かな攻防は始まった。
攻めたのは男。正眼に構えた刀の切っ先から殺気がほとばしり、その向けられた先、美咲の喉元にヒリヒリと焼け付くような痺れを与える。
(突きか……いや、違うな)
男の手首がわずかに傾き、切っ先が動く。美咲の肌に伝わるヒリつきは喉元からじわじわと細い首を舐めるように這い上がり、わずかに紅潮し始めた頬を伝い、左目に突き付けられる。
(威圧か!)
真剣に限らず、尖った先を眼球の中心に向けて突き付けられて萎縮しない者はない。鋭敏な感覚器である眼球に向けられた切っ先の威圧は、肌が感じる殺気と比にならぬ強大さと鋭さを伴い、美咲を攻め立てる。
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