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「恋…あのな…」
父が何か言いかけた時、リビングのドアが開く音がして、皆の視線がそちらに向いた。
その姿を目にとめた瞬間、思わず声が出た。
「あんた……っ!」
ゆっくり中に入ってきたのは、さっきラブホ街であたしを助けてくれた、口の悪い最悪男だった。
「遅いじゃない、祐!」
「酔っ払いに絡まれてた女、助けてたんだよ。」
そう言って、母親に責め立てられながら、男がソファーに歩み寄ってくる。
「でも今日は顔合わせする大切な日だから、早く来てって言ってたでしょう?」
「悪かったよ…。」
困ったように苦笑しながら謝っていたけれど、ただ漠然と男の顔を見ているあたしの視線に気付き、「あ!さっきの女!!」と、男が声を上げた。
「知ってるのか?」
父があたしに訊いてきたけれど、あたしは何も答えず、男の横をすり抜けるとリビングを飛び出した。
「恋!!」
父の呼び止める声が聞こえていたけれど、そのまま玄関で靴を履くと夜の星空の下を目的も無く、駆け出していた。
行く宛なんて、どこにもないのに……。
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