709人が本棚に入れています
本棚に追加
/571ページ
「そんな無茶な。たまたま状況が似てたってこともあるでしょうよ」
一瞬、絶句した河野刑事は、しかし平静を装いながら笑みを交え、反発した。
「たまたまなんてもんじゃねぇ。害者の殺害方法、死体の状態、部屋の状況。全てが一致している」
小山田警部補がまくしたてた。
「おまけに死亡時期も高土が『赤い狂気』を発表した時期と重なるんだぞ?こんな偶然あってたまるか!!」
語気を強める小山田警部補だが、常々慎重な捜査を良しとする河野刑事の中ではまだ推測の域を越えない疑惑であった。
物的証拠もないのだから、刑事としての判断は客観的に見ても河野刑事の方が勝っていた。
「ヤマさん、だったら高土本人にバカ正直に真意を問いつめますか? ただ状況が一致してるからってだけで参考人として高土を取り調べるのは余りにも時期尚早ですよ。害者の身辺調査の方が先です」
小山田警部補が河野刑事を好いているのは、こうやって目上の者に対しても我を張れる強みがあるからである。
「そうかもしれんが、しかしだな……」
強気な小山田警部補も今回ばかりは分が悪いようで、バツの悪そうな顔で渋々持論に終止符を打った。
「さあさあ、現場検証は坊西さん達に任せて、我々は署に戻りますよ」
いつの間にか、イニシアチブが逆転した二人の足は勢い無く署へと向かった。彼らの額から流れる汗が何も暑さのためばかりでないことは明白であった。
最初のコメントを投稿しよう!