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頂上と思われる十メートル四方の狭い空間に社はなく、あるのは鳥居だけだった。
玉砂利の不安定な感触を足の裏に感じつつ、鳥居に近付く。
おや。おかしいぞと思った。
鳥居の口の部分が妙な具合に光を吸い込んでいる。まるで、水面の様にゆらゆらと揺らめいているのだ。
奥には長い石段が見えた。指先で触れてみる。
触れた部分を中心に波紋が出来る。
水、なのか。
理屈は分からないが、鳥居の奥は水に満たされていた。
とぷん。
今度は壁の様な水面に、腕を入れてみる。
水面に波紋を残し、腕は吸い込まれていった。
冷たくはない。寧ろ、空を掴む様に何の感触もなかった。
りぃん……
像を歪めた石段の上からまた、鈴の音が聴こえた。
この奥に誰か居る、何かある。
私は意を決っした。
進まければ。
何でもいい。私が今措かれた状況の手懸かりを得るには、進むしかないのだ。
水面に差し込んだ腕をそのままに、息を大きく吸い、目を閉じ前進する。
肩が、顔が、全身が鳥居を潜った。
恐る恐る、目を開く。
そこは確かに水中だった。見上げれば遥か高い位置に水面があり、透過した陽光が揺らめき、無数に変化する光の柱となり踊っていた。
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