9人が本棚に入れています
本棚に追加
湖底に近付くにつれ舞い踊る光は色味を失い、淡く消え、静寂と深い蒼とが湖底に降り積もる。
目の前には紺碧に彩られた階段と、それに続く石造りのごく短い道。
周囲の高い木々は海草の様にゆらゆらと枝葉を揺らしている。
その光景を私は底から眺めていた。
私の周りを包む物は空気ではなく、恐ろしく透明度の高い水分だった。
けれど、浮力を感じない。有るべき水の抵抗も、まるでなかった。
蒼く染まる風景以外は、何もかもが地上に居るのと変わらなかった。
息が出来るのではないかと、恐る恐る吸ってみる。
確かに水を吸った筈なのに感触はない。
思い切って今度は大きく吸ってみた。
水ではなく、空気が肺に充ちるのを感じた。
呼吸が出来る。
何なんだ此処は、全てがあべこべだ。
考えなしに入ってしまったのは失敗だったか。
今更ながらに思う。
私の常識からはあまりに逸脱している。
状況の推移が追い付かず、混乱するばかりだった。
最初のコメントを投稿しよう!