水の杜

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 頭を冷やそう、一度ここから出て、それからまた考えよう。  境内から出ようと後ろを振り返る。 「なっ」  言葉にならなかった。  鳥居は消えていた。  そこに鳥居があった痕跡すらなく、ひたすら玉砂利の湖底が広がっている。  何もない。  何処に繋がるとも知れない蒼と白の淋しい風景、揺らぐ視界に遥か遠い地平が映る。 「進むしかないってことか……」  誰かが、何かが私を前に進ませようとしている。  鈴の音に導かれ、鳥居に誘われ、訳の分からない世界に身を投じるのに私以外の何者かの意思を感じた。  ぼやけた太陽に向かい真っ直ぐに伸びる石段。  階段脇には澱む事ない水の流れに身を委せ、下草が揺れていた。  何処かで私を傍観する者が居るのだろうか。その誰かは、私に何を求めているのだろう。  何にしても、今の私は流れに身を委せるより他にはない、目の前の下草と同じ様な立場だ。  見えない何かに怯えながらも、私は石段に足を掛けた。  百段以上は上った事だろう。けれど、水面は一向に近くならない。  どれだけ上に行こうと、辺りは湖底の色をしていた。  段数の多さに辟易しながらも一歩ずつ上る。  やがて、入り口にあった様な鳥居が現れた。
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