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おいおい、また妙なことが起きるのか。
しかし、引き返した所で帰る道などないのだ。ならばと、鳥居を目指し歩を進ませた。
丹塗りの鳥居の奥には、千古の昔を思わせる六角の社殿と、渡り廊下で繋がる六畳程度の四角い能舞台の様な物が見える。
しかし、想像していた様な人影はなく、祭りをやっている気配はなかった。
何がおきても驚かない様、覚悟を決める。
一回、二回と大きく深呼吸をする。
目を閉じ、体当たりするような勢いで飛び込んだ。
瞬間、意識はぷっつりと切れ、世界は暗転した。
●
りぃん……
澄んだ鈴の音が、白木の舞台に響き渡る。
穏やかな春の陽を浴び、少女が舞っていた。
年の頃は十二、三歳くらいだろうか。
巫女装束を身に纏い、手には神楽鈴を持っていた。
鈴の音には古来より、魔を祓う力があるとされる。
五穀豊穣、若しくは、加持祈祷の舞いなのだろう。
舞台から一段低い、玉砂利の境内は、舞いに見入る人々で溢れていた。
しかし、どの顔も表情は曇りがちで浮かない。
なかには嗚咽を圧し殺し、肩を震わせる者までいた。
しかし、あどけなさの残る少女の表情は明るかった。
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