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東京郊外の立川駅から程近い雑居ビルの屋上…
「よしっ、洗濯完了~っ!」初冬を迎えた、とある日曜日の早朝である。
吐く息がうっすらと白味を帯びる中、独立行政法人 日本衛生履行安心保全機構の入居するビル屋上で洗濯物干しに勤しんでいた俺こと…冴木功太だ。
まだ澄みきってカラッとした空気が、朝日と相まって奇妙な充足感を与えてくれる。
「んじゃ!功太ぁ~っ!何処に遊び行こ~か?」タイミングを見計って声を発したのは、空になった洗濯籠を必死に持ち上げフラフラと俺の目線を飛び回るタレイアだ。
「タレイア、駄目ですわよ。そんなに急かしては功太さんに御迷惑ですゎ!」胸の前で手を握り合わせ、夢見る乙女のポーズで俺の顔を覗き込み、期待度120%の笑顔を浮かべているのは姉のシルフィである。
妹を諌めつつも…心の高揚がパタパタと揺れる半透明の羽からも滲み出ていた。
今日は遠出の遊びに行くと前々から約束していた日なのだ。
独立行政法人 日本衛生履行安心保全機構…
この長ったらしい名前の独行法人…表面上は日本政府の天下り外郭団体だが、本来の名称は衛履安(エイリアン)保全機構。実際の業務はなんと…日本に住む地球外生命体、つまりは様々なエイリアン達に日々の生活必需品…日用品からレアメタル…物に因ってはかなり危険な物までを融通、配達することで彼等の科学技術を供与して貰い、更にはその技術を日本政府に提供する事で莫大な補助金をせしめ取る、天上り団体なのだ。
そんな日々の業務の中で行動を共にする事となったのが、先程から俺の周りをパタパタと飛び回る妖精…いや、妖精の様なエイリアン、シルフィとタレイアなのだ。
カノ~族の姉妹…身長は二人共に20cm強で背には半透明の羽根を二枚備え、姉は燃える様な紅い髪、妹は朝日をキラキラと跳ね返す黄金色の髪である。
思いきり目立つ二人だが、彼女達の特殊な能力によって一般人の目に触れる事はない。
従って今の処、その存在が公にはならずに済んでいる。
「ワタクシ…水族館と言う施設に行ってみたいですゎ!」微妙な丁寧語の姉と…
「アタシ~!空飛ぶ鉄を近くで見た~い!」元気の塊の様な妹である。
そんな姉妹を微笑みつつ見守る俺の頭の内では突如…
『やれやれ…休みの日に逢い引きもせずに子守とはな…貴様も残念な男よの、冴木功太よ…』姿無き人物がボヤキを打った…
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