化け物殺しの化け物

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「我輩の名はキューテイン・タイカヌテンド・ロイブカス・ウルナゲスト四世。貴様達も吸血鬼の端くれなら、覚えておかねばならぬ名だ」 「む、『無血の貴人』!」 「『化け物殺しの化け物(フリークスキラーフリーク)』じゃねえか! おい馬鹿、ゴーガ、頭下げろ!」  二人は慌てて頭を下げ、無礼を詫びた。 「すいません旦那。俺達まだ新参者でして、何分事情に疎いもんでして……まさか旦那が高名な真祖だとは思いもしませんで……」 「我輩のことは閣下と呼べ。ミトロプーロスはそんなことも教えていないのか?」 「す、すいません閣下さん」  ぎろり、とキューテインの深淵の瞳が謝ったゴーガを捉える。 「貴様はNHKのアナウンサーか? 何処に閣下の後に『さん』を付ける馬鹿がいる。付けるのなら『殿』だろう。否、もう謝罪の言葉はいい」  二人は急に胸が苦しくなるのを感じ、そのすぐ後に目を見開いて力なく崩れ落ちた。  事切れている――。  その様子を頬杖をついて見物していた店主、レオニード・パヴロフは「あーあ」と他人事のように声を上げた。 「殺っちゃいましたか。弔い屋を呼ばないとなあ。しかし閣下殿の化け物嫌いは病気ですねえ。俺もただの人間でよかったと思いますもん」 「お前がただの人間? くくく、これは面白いジョークを聞いたな。我輩が手を下さずとも、お前が始末していたのではないか?」 「俺はただ酒の席の冗談だと聞き流してましたよ。夢物語を語るだけなら自由ですからね。そんなことでお客さんの命は取りません」 「それはすまないことをしたな」  キューテインは二人の死体の隣の席に腰を下ろし、奥の棚に並んだ酒瓶を眺めた。 「何にします?」 「そうだな――ドライマティーニでももらおうか」
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