グレートヒェンは救われない

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 十五歳になったマルガレーテは野良犬のように焦点街で生きている。美しい顔は埃で汚れ、黒髪は乱雑に伸びて艶を失っている。だが、その琥珀色の瞳だけは依然強い光を発している。 「問おうか、問おうか、答えよか、答えよか」  後ろからそう声がし、マルガレーテは振り向いた。  ――何もいない。  ただ雑多な建物が並ぶ、焦点街の道が延びるだけである。 「怪忌か?」  マルガレーテは周囲に神経を張り巡らす。  突如、マルガレーテは両足を引っ張られて地面に倒れた。足元を見ると地面から二本の手が生え、マルガレーテの足を掴んでいる。  そこからさらに巨大な頭が迫り出し、マルガレーテの顔と額を突き合わせる。 「問おうか、問おうか、答えよか、答えよか」 「黙れ」  その場違いに落ち着いた声と共に、顔の真ん中を美しい刀が貫いた。 「神生刀(しんせいとう)伊弉諾(いざなぎ)。怪忌は所詮怪異の殻を被っただけの化け物。この刀の前には無力だ」  刀が引き抜かれ、顔は断末魔の声を上げながら崩れて消える。  無言で刀を鞘に納める男。黒髪に黒い瞳。倦み疲れたような表情を浮かべ、マルガレーテを見下ろしている。 「立てるか?」  手を差し伸べられ、マルガレーテはその手を取って助け起こされた。 「別に、あんなものあたし一人でもぶっ潰せた」 「怪忌を消すのは俺に差し出された命だ。見つけたからには必ず消す」  男はそう言うと背を向け、静かに歩き出した。 「あんた……天賀茂家?」 「俺は天賀茂家に仕える者」  それ以上男は言葉を発することはなく、暁の焦点街に消えていった。
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