Welcome to Focal district

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 この世界は終わっている――。  弐条(にじょう)穢土(えど)は学校が終わると電車に乗り、自宅に向かった。  学校の生徒達は高校生になったというのに――否、高校生だからか、馬鹿ばかりだ。どいつもこいつも言葉に品性の欠片もなく、頭の悪い会話ばかりをしている。  穢土はそんな会話に加わらないし、加わりたいとも思わない。周囲は穢土を馬鹿にした目で見ているのだろうが、穢土はそれよりももっと高尚な蔑みの目で彼らを見ている。そして彼らは気付かないのだ――穢土の研ぎ澄まされた厭世の目を。  穢土とはこの世。汚れたこの世。彼はこの世を忌み嫌い、やがて厭離するのだ。今はただその時を待ち、静かに身を潜めている。  自宅の最寄り駅に電車が着き、穢土は電車を降りようと座席から立ち上がる。  家には誰もいない。「研究」という名目で海外を渡り歩いている父親。そんな何の連絡も寄越さない男を居場所もわからないのに追いかける母親。生活費は充分に入金されるから、日常で困ることはない。  ――帰ったところでどうにもならないか。  穢土は一度立ち上がった座席に再び座り直し、気の向くままに小旅行を決行することにした。金の心配はないし、遅くなったら適当にホテルでも見つけて泊まろう。何なら明日学校を休んでもいい。
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