Welcome to Focal district

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 乗換駅があるとそこで電車を換え、とにかく自宅から離れた土地を目指した。何度も乗り換えを繰り返し、もはや覚えられない程に複雑なルートを通ってきた。どうやら山の方に向かっているのだろうということだけはなんとなくわかった。  終点で降りてもよかったのだが、それでは芸がないと適当に決めた駅で降りた。異違羽(いいは)東部(とうぶ)という駅だ。既に乗客は殆どおらず、その駅で降りたのも穢土以外には一人だけだった。  駅の周りは閑散としており、民家も殆どない。ただの荒れた空き地が広がるばかり。T都にもまだこんな土地が残っていたのかと穢土は少しだけ驚いた。  ここではホテルも見つけられそうにないと、穢土は人がいそうな辺りを求めて歩き出した。少ない外灯は弱い光で道を照らし、その光が届かない場所はすっかり闇が侵食している。  穢土は闇が好きだった。無遠慮な光は見せなくていいものばかりを晒してしまう。真の美しさは、闇の中にこそある。それははっきりと目視するのではなく、観念的なものであるべきなのだ。  やがて遠くに街の明かりが見えてきた。その光は完全に闇を駆逐するものではなく、上手く闇と共存している。  街は広かった。レストランやバーなどの飲食店もあれば、商業ビルと思わしき巨大な建物も、時代遅れの日本家屋も、日本には似合わないゴシック様式の家もある。
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