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「ハア……ハア……」
息を切らせながら走っているのはひとりの少女だった。
着ている制服から、この辺りでは有名な私立の女子校の生徒であることは分かる。
ちょっと詳しい者が見れば、バッジが赤いことから、二年生ということも分かるだろう。
美少女と称しても誰からも文句など出ないだけの容貌を有してはいたが、そこに笑顔はない。
長い黒髪で表情を隠しながら、うつむき加減に駆ける少女の姿は、初夏の夕暮れの商店街にはそぐわない。
鞄も提げていないところを見ると、下校途中とも考えにくかった。
「なんで……なんでよ……」
呟く少女の声は道行く人には聞こえない。
と、足をもつれさせた少女は、ふらつきながら道端に座り込んでしまっていた。
スカートが汚れはしたが、気にもしていない。
息が上がっている以外は怪我もないように見えた。
いや……、一か所、左手首の外側に引っ掻き傷らしき血の滲みだけがあった。
「……なんで…………」
先刻と同じ言葉を弱弱しい声で繰り返し、ふと視線を上げた少女の視界に飛び込んできたのは、この場には相応しくない赤茶けた木製の扉……。
「……『最期の扉』……?」
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