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リクレイム・ディーヴァ
……私の心を蝕んでいくフィア…………
「そう、あなたの言う通りよ」
彼女は悲しげに呟き、頷いた。
……生きる意味さえも分からないままに…………
「何故、彼女を?」
私が尋ねると、彼女は一瞬驚いた顔をして開けかけた口をつぐんだ。
そこに、啓斗が割って入った。
……私の命をあなたに預けるのならば…………
「彼女は殺されたんじゃない。そうですよね?」
啓斗が彼女を見ると、深々と頷いた。が、その後徐に首を横に振った。
「でも、私が殺したと言っても、過言じゃないかも知れない」
……この乾いた茨を解けるのならば…………
そして彼女は、私に向き変わり言った。
「私を、警察に連れていって下さい」
私が目を瞑り、小さく首を振ると、彼女はしゃがみ込み、寂しげに啜り泣いた。
……私の心を蝕んでいくフィア…………
「確かに、罪と言えば罪かも知れない。でも、彼女の意志を継いでいるあなたにこそ、やらなければならない事があるのではないでしょうか」
彼の言葉に泣きながら頷く彼女を見て、私は胸が張り裂けそうに辛かったであろう事を感じた。
……誰かの為ならば心を捨てられると…………
彼女が生きてきた日々を、隠れ続けてきた日々を、空の彼女はどう思っているだろうか。
悔やんでいるだろうか、後悔しているだろうか。
……変わりゆく自分の姿を抑える一つのポエム…………
人の為に死ぬ、果たしてそれが善なのか、あるいは悪なのか。
もし、その後悔が、先に立たないのであれば、
彼女のような悲劇の歌姫は消えないのだろうか。
……私の変わりに今を生きて、生きて、生きて…………
不意に、啓斗の携帯が鳴った。
携帯をしまった彼は、彼女に向き直り、言った。
「お母様が、先程、目を覚ましたそうです」
彼女の漏らした真珠のような嗚咽は、ホールに美しく響いた。
淡いブルーの空は、金色に輝き、色付き始めていた。
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