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『大粛清』。
法律上の正式な名称もあるが、ややこしくて長ったらしいその名前を記憶している国民はほんの一握りだろう。
21世紀初頭。
発達したインターネット、行き過ぎた個人情報端末の急速な普及に端を発した、若年層による犯罪の急増とその悪質化。
取り締まりの手立てを失った国家は、ありとあらゆる情報の交錯を徹底的に制限することで秩序を保つしかなかった。
漫画が消えた。
アニメが消えた。
大衆映画が消えた。
性犯罪や暴力事件の根源は、すべてこれら過激なメディアのせいとされた。
音楽はほぼクラシックと民謡、童謡のみとなり、プロアマ問わず、若者を扇動するような曲を書いたミュージシャンや団体は厳しく処罰された。
パソコンや携帯電話などの情報端末もその性能を大幅に削減され、最低限の機能しか持てなくなった。
娯楽は、奪われた。
日本は、変わった。
法律施行直後に見舞われた未曾有の経済危機を他国の援助により切り抜け、いくつもの世代を越え、百年の歳月をかけて、日本は変わった。
犯罪は激減した。
ただ、
波が引いた後の渇いた砂浜のように、
からっぽな国民だけが、抜け殻のように残された。
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