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プレリュード
あれから百年。
テレビの中のニュースキャスターが、フリップに描かれた右下がりの折れ線グラフを指差して誇らしげにこう言った。
「ご覧ください皆さん。我が国ではこの百年間でこんなに犯罪が減ったんですよ。これはとても素晴らしいことです」
あれから百年。
頭に白髪が混じりはじめた支持率低迷中の総理大臣が、記者たちを相手にここぞとばかりに大声を張り上げた。
「皆さん。我が国は今や、世界の中で最も平和で、犯罪の少ない国と言えるのではないでしょうか。もちろん、私は今後もこの政策を国を挙げて取り組み、さらに強化し―…」
あれから百年。
日本史の教師が、黒板に真っ白なチョークで書いた自分の汚い字を恥じもせずにこう説いた。
「当時は“世紀の悪法”と散々罵られきた『大粛清』ですが、今となってはこの法律が我が国を平和にし国民を救ったと言っても決して過言ではないでしょう」
あれから百年。
少年たちは、通話と定型文のメールとニュースと天気予報の確認しか機能のない携帯電話の画面を睨みつけてつぶやいた。
「今日もつまんないな」
『大粛清』から百年。
国民が国家に「娯楽」を奪われて、今年でちょうど百年が経つ。
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