序盤です

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「十一時五十分、まぁ良い感じの時間だろう」  いつものバスを降り、通いなれた学校への道を歩く。一週間前には殺風景だったこの道も、今や季節外れの桜吹雪が舞い、情緒溢れる姿となっている。  そんな道の先、風見学園の校門前に、桜と同じ髪色をした女の子が立っていた。 「美琴、待たせたか?」  そう声をかけながら近づくと、驚いたように身体を震わす美琴。驚かすつもりはなかったけど、悪いことをしたかな?  ひと言謝ろうと思ったが、そんな気遣いは無用だった。 「お、遅い! 今何時だと思ってるのよ!」 「えーと、十一時五十分」  携帯の時計を見せ、今の時間を教えてやる。美琴は頬を膨らませながら、睨みつけてきた。 「男は三十分前行動が基本でしょ!?」 「三十分って、流石に早過ぎないか?」 「杉並様は普通にしているわ! あんたも見習いなさい!!」  そりゃあ、あの人は特別だ。三十分どころか数時間、はたまた時間を超越して待っていそうだ。 「あの特別な人を見習えってのも」 「そうよ特別! 杉並様は特別なの! あんたなんかに真似できるわけないでしょ!?」 「見習うのか見習えないのか、どっちなんだよ」  出会ったばかりなのにこの面白さ。さすが美琴、休みの日でもブレないな。  なんて関心をしていると、ふと美琴の私服が気になった。  別に服装がおかしいわけじゃない。むしろ遠目から見れば、立夏さんに引けをとらないくらい可愛い。  学校じゃ絶対に見れない……いや、美琴に見えない美琴が新鮮だった。 「美琴って、こう見ると可愛いよな」
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