本編です

4/6
前へ
/38ページ
次へ
「い、いい、いいわよぅ!?」 「え?」  なんだ今の言い方、また声が裏返ってるし。 「どうした美琴? 今日おかしいぞ」  いやいつもおかしいのだが、今日は特別おかしい。最初の返答からさっきの沈黙、そして今の返事。  まるで美琴が最初に言っていたように、なにかに緊張しているようだった。  緊張すること、で思い当たる節といえばこの電話。遊びへ誘っている電話だ。  そういえば、ワンコールで美琴に繋がったよな? あれって偶然か?  もしかしたら美琴のやつ、俺からの電話をずっと待っていたんじゃないのか? 「なぁ美琴、お前もしかして俺の電話を待って」 「ううううるさーい!」  俺の言葉は美琴の怒鳴り声にかき消されてしまった。そしてあまりのうるささに、携帯電話から耳を話す。 「あんた光栄に思いなさいよね! わざわざあんたのために時間を作ってあげるって言ってるの! 杉並様以外に時間を作るなんて、ぜっっっっったいにあり得ないんだから、泣きながら感謝しなさい!!」 「えっ? ごめん、後半しか聞こえなかった」  耳を離していたせいで前半部分は全く聞こえてなかった。でもまぁ、なんて言っていたかは想像がつく。  キー! と美琴の悔しそうな甲高い声が聞こえ、俺はまた携帯から耳を離す。 「あんた、この私を誘うってことは、それなりの場所へ行くってことでしょうね!?」 「それなりの場所?」 「そうよ! 映画館とか、遊園地とか、ショッピングとか」 「おいおい、それじゃあまるでデートじゃないか」 「デ!?」  当然のツッコミを入れたと思ったのだが、ここからまた数秒の間、美琴からの返事はなくなった。  仕方ないので待っていると、咳払いが聞こえてきた。 「こ、こほん! で、どこへ行くの?」 「えっと、特にこれといって決まってないんだけど」  美琴は期待していたかもしれないが、こっちは今の今まで忘れていたのだ。ダメ元で電話をかけただけなので、行く場所なんて当然決まってない。  あとで美琴と一緒に決めればいい。そう思った俺だが、その考えは甘かったらしい。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加