一 免許皆伝

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一 免許皆伝

   とある時代のとある大陸での話である。  その大陸は丁度日本の鎌倉時代末期と戦国時代をまぜっこにしたような時世を迎えていた。  人心猛々しく、武を誇って糧と為し、狡智を携えて杖と為す。世の乱れる事麻の如し、大小の国々群雄割拠して覇を争う。陰謀、裏切り、下剋上、いかがわしい生業の横行、力に任せた横車、昨日忠義の家来が今日は主の身ぐるみを剥ぐ・・・・・・。  ハンベエが二十歳になり、師のフデンから剣の免許皆伝を称する事を許されたのはそんな乱世の真っ只中であった。  フデンはこの時七十歳を越え、ぼちぼち死神にご対面と悟りすまして日々を過ごしてしていた。  フデンの前半生は戦場往来の毎日であった。  十五の歳に食い扶持を求め、わけもわからず軍営に紛れ込んでから四十余年、戦場に出ること数知れず、戦の勝ち負けを問わず、一度の不覚も取らずとは、本人自身の弁であるが、これほど長期に渡り戦場を馳せて、片輪にもならず、命を落っことす事も無かったのは、運の良さもさる事ながら、武勇の程が知られようというものである。  さて、このフデン、六十ウン歳になった時に突然戦場稼業を引退し、孤児のハンベエを引き取って(と云えば聞こえがいいが、有体に云えば、人買いから売りに出ていた子供のハンベエを買い取ったのである。)、山深く隠棲し、ハンベエに剣の修行を施す事10年、本日メデタク、ハンベエの免許皆伝と相成ったわけである。フデンの物語完結、めでたし、めでたし・・・・・・じゃなかった。本物語の主人公はハンベエだった。
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