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「いや、あれは芝居じゃない。あんた、もとい、王女の家来がかかって来たら、死骸がいくつか転がる事になったはずだ。」
ハンベエは無表情に言った。愛想のない返事だ。
「腕に覚えがお有りのようですね。私の家臣達は命拾いしたと言うわけですね。」
王女は笑みを絶やさずに言い、さらに続けた。
「でも、真の強者は軽々しく戦わないと聞いていますが。」
ハンベエは王女の問いには答えなかった。真の強者がどうとかいう話は、今のハンベエには何の興味も無い。師のフデンの申し渡しに従い、斬って斬って斬りまくるのみである。そのうち答えが見つかるだろう。
ハンベエが何も答えなかったので、王女は話の接ぎ穂を失い。困ったような顔をした。
「王女様、オイラ、バンケルク将軍から、手紙を届けたら、褒美をもらえるはずだって言われたんだけど。」
すまなそうにロキが言った。
「おや、これはすまない事をしました。ロキさん、褒美にこれを上げましょう。」
王女はそう言って懐剣を取り出して、ロキに渡そうとした。宝石の散りばめられた高価な品物のようだった。
「王女様、オイラ、そんな物を頂いても困ります。」
「これではいけませんか。では、何がいいのですか?」
「金貨を十枚ほど、頂ければ有り難いです。」
「金貨は今手元にありませんが・・・・・・明日用意させましょう。では、今夜はこの城に泊まるといいでしょう。」
王女はこう言ったが、ロキは手を振って、
「お城に泊まるなんて、滅相もありません。今から宿屋に行きます。」
と言った。
「宿屋の目当てはあるのですか?」
「『キチン亭』という宿屋に泊まります。手紙は無事に届けられましたし、今日はこの辺りで退散します。」
ロキは王女にこう言って、ぴょこんとお辞儀した。
「そうですか。では、褒美は明日その宿屋に届けさせましょう。この手紙に関する事は他言無用にして下さい。」
ロキとハンベエは王宮を辞して、表に出た。
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