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「確かに私とお前は悪人同士だ。しかし、貴族一統には王女殿下に国王毒殺の濡れ衣を着せて、誅伐を企てたという逃れようのない大罪が有る。ハンベエの悪の方が分が有るだろう。」
「だが、ラシャレーの衣鉢を継いでこの国を導けるのは、困った事に今のところ、お前しか思い付かねえ。この俺を除こうとした非情さも含めてな。」
「では、やはり私を斬らぬのだな。」
「斬らん。」
「ならば、ハンベエ。貴公を逮捕するぞ。」
「・・・・・・。」
「貴公は姫君の裁可も仰がず、貴族一統を皆殺しにした。ラシャレー閣下の示唆が有ったとは言え、王権に対する著しい干犯行為だ。今後の秩序回復の上で見逃し難い。」
「『ヨシミツ』も『ヘイアンジョウ・カゲトラ』も預けないぜ。」
「良いだろう。貴公がその気になれば、私などの手に負えるものでもないだろうからな。貴公の処分は王女殿下に委ねる事となる。」
「王女が俺に処分を下せるかな?」
「姫君には、今後ゴロデリア王国を統治して行く試金石になるだろうな。」
「王女も気の毒に。で、俺は王宮の地下牢に入れば良いのか。」
「いや、貴公の執務室に籠もってもらえば良いだろう。総司令官としての任を停止し、形式的な軟禁状態を維持できればそれで良い。」
「王宮の庭での剣の鍛練と、『キチン亭』での入浴も認めて欲しいが。」
「ああ、出来るだけ王宮に留まって、ゲッソリナから出ないようにしてくれればそれで良い。」
随分緩い逮捕であるが、王女軍兵士がハンベエに懐く英雄崇拝の念を思えば、ハンベエが了承の上であっても投獄は反って無用の混乱を招いてしまうとモルフィネスも思っての答えだった。
「しかし、貴公も本当に死なんなあ。」
最後にモルフィネスが呆れたように言うと、
「まあな。今回も良い線までは行ってたんだがな。」
とハンベエも他人事のように答えた。どうにもこうにもなやり取りである。
そう言うわけでどう言うわけか、モルフィネスはハンベエを逮捕してしまった。すぐに王宮に駐屯する王女軍兵士やパタンパのドルバスへ伝達が為された。続けて一般の兵士達にも公表され、又、遠くボルマンスクの王女エレナに向けてもモルフィネスから書面による使者が送られた。
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