二百八十 綺麗は汚い 汚いは綺麗

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 ハンベエ逮捕の報は、王女軍兵士達に衝撃を走らせた。王宮内は蜂の巣を突いたような大騒ぎになり、パタンパ方面の兵士達にも動揺が起こった。  先ず最初に王宮に所属する兵士達が次々とハンベエへの面会を求めた。ところが、ハンベエは自分の執務室に自分の意思で謹慎しており、投獄されたわけではない事がすぐに判明した。又兵士達の面会を妨げる者も無く、あっさりハンベエと話をする事が出来た為、拍子抜けするやら肩透かしを喰らった様子で呆然とするやらであった。ハンベエの口から、パタンパで貴族一統と諍いになり、行き掛かりでこれを鏖殺した咎で逮捕され総司令官の任を停止されているが、投獄は為れず身の拘束はハンベエ自身に任されていて、王女エレナの裁定を待っている所であるから余計な心配は無用であると諭されて王宮兵士達は元の任務に戻った。  ハンベエへの面会の許可を先にモルフィネスの所へ求めに行き不審を問う兵士も多かったが、これに対してモルフィネスはもう直接応対せず、部下を通して『ハンベエは自分の執務室にいて、面会自由であるから、逮捕の件についてはそっちで話を聴け』とハンベエの方へ向かうよう積極的に仕向けた。  素破っ、救国の英雄の一大事とおっとり刀で駆け付けた面々はノンビリとしたハンベエの説明に、振り上げようと力を込めた正義の拳を間の抜けた思いで降ろす嵌めになった。  しかしながら、ハンベエの身を案じて面会を求めた兵士は途方もない数で、ハンベエは朝から晩までその対応に追われ、最後の方はかなりお疲れ気味であった。 (ハンベエに対する兵士達の畏敬の念に危惧を抱いたが、危惧した以上だ。これではハンベエが王国簒奪の声を上げたら、王女軍の兵士十人の内九人までハンベエに付いてしまいそうだ。)  とモルフィネスはハンベエ人気の高さに鼻白む思いであった。  二日後には、何とパタンパ方面軍を統帥するドルバスが一万の兵を率いてゲッソリナの王宮へ急行して来た。  ドルバス率いる兵士達はやって来るなり、王宮兵士と対峙して陣を敷いた。事と次第によってはモルフィネスと一戦も辞さない構えで、力尽くでもハンベエを解放する覚悟のようだ。  兵士からの注進に、慌ててモルフィネスが城門に出て来た。  護衛も連れずに独りで現れたモルフィネスを見て、ドルバスも一人進み出た。 「ハンベエを逮捕したと聞いたが事実か。」  とドルバスは険しい口調で問うた。 「事実だ。」  モルフィネスは少しウンザリしたように答えた。
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