二百八十一 ドン・キホーテ・ラ・マンチェ(前編)

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二百八十一 ドン・キホーテ・ラ・マンチェ(前編)

 キューテンモルガンの側近として埋伏している元群狼隊副官クラックにとっても、モルフィネスによるハンベエ逮捕は寝耳に水の出来事であった。キューテンモルガン達にしてみれば、参戦要請のあった貴族軍の討伐については貴族軍の降伏の情報を入手済みで、さて最早王女軍に恭順する外ないという空気が漂った矢先の事であった。 「・・・・・・分かりませんな。」  クラックは真から首を捻って絞り出すように言った。  それを受けて、キューテンモルガンは大きく腕組みをし、左右の面々を顧みた。  それから改めてケーシーことクラックに眼を向け、 「王女軍に恭順する意向に変わりは無いが、もし王女軍内部で権力争いが起こっているなら巻き込まれても詰まらん。ケーシー、ゲッソリナまで行って仔細を見極めてもらえないか。」  と頼んだ。 「私がですか。」  とクラックは少し警戒気味に反問した。キューテンモルガンが自分を指名した真意に疑念がチラついたらしい。 「そうだ。貴公は所謂眼力を備えた士であると常々俺は思っている。今回のような面妖な事態の見極めはボンクラでは務まらんから、是非頼む。」  とキューテンモルガンはかなり強引に迫った。 「分かりました。では、すぐにゲッソリナに向かいます。私が戻るまで、軍を留めて待機願います。又くれぐれも王女軍と敵対しないように注意して下さい。」  迫られて、クラックも流石に断るわけにも行かない。又ハンベエ逮捕というのはクラックの想像をも超えた事態であり、ゲッソリナで何が起こっているのか気になる。今後の対応についての指示をモルフィネスから直接受けたいという思いが湧いていた。その場を去り、ゲッソリナに向かう準備に掛かった。  クラックの去った後、キューテンモルガンはしばし無言であったが、クラックの姿が完全に視界から消えたのを確認すると、 「ヒルネーを呼んで来い。」  と別の側近に命じた。  ヒルネー、この名を読者諸兄、覚えておいでだろうか。  キューテンモルガンの指図で側近が連れてきたのは、アカガネヨロイのドブスキー配下の『三途の七人衆』の生き残りで、ハンベエにルキド退治を頼みに行った、あのヒルネーであった。  ハンベエに見逃してもらった後、行き着いた先はキューテンモルガン一派の下だったようだ。
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