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「では、やはり閣下のお心は何故としか考えれません。ハンベエが邪心を懐いていないのに。」
「私は、自分自身も含めて人間の善意なるものを究極的には信じない。それ故、ハンベエという人物がどうであろうとその存在自体が危険であると判断したからには王国の為取り除かねばならないと判断した。だが、殺せなかった。ハンベエは何かに護られている気がする。人力の及ぶところでないと判断せざるを得なかった。ところで、殺されようとしたハンベエの方も私の心情が深く解ったらしい。全く肝胆相照らすというが、皮肉な話だ。ハンベエが私を斬らなかったのは私に私的な感情の無い事を酌み取ってくれたのだろう。まあ、兎に角私もハンベエの抹殺は諦めた。という事なので、クラックもハンベエには余計な手出しはしないように。これは忠告でもある。」
「・・・・・・しかと。・・・・・・しかし、キューテンモルガン閣下にはどう説明しましょうか? 王女軍の内紛を期待するような雰囲気が有りましたが・・・・・・。」
「キューテンモルガンには王女軍に内紛が起こったら何かしようという野心が有るのか。」
「それは・・・・・・キューテンモルガン閣下も又所謂乱世の雄の一人のようですから。」
「するとキューテンモルガンは排除した方が良いのか?」
「いや、キューテンモルガン閣下は妙に人好きのする一面が有りまして、又野心と言っても脂ぎった雰囲気では無く、何が何でも欲しいものを手に入れるという雰囲気の人ではないのです。無理と明らかになれば、あっさり諦める潔さが有ります。人柄に何というか、可愛げが有る人なので、私としては誤った道に踏み込む事無く身を全うさせてあげたいと思うところです。」
「ふむ。・・・・・・そうだな。そこまでキューテンモルガンが気に入ったなら、クラック。いっその事、もう相手にクラックも素性をバラして愚かな事を為ぬように説得してみるか?」
「素性を明かしても宜しいのですか?」
「うん。内乱も頂上を越えて三合目より下まで降りて来ている。今更、キューテンモルガンが敵対しても孤立して滅ぶのみだ。」
「では、ハンベエ逮捕は閣下とハンベエぐるの芝居で、閣下とハンベエは一味同心少しの亀裂も生じていないから、妙な期待は身を滅ぼすとハッキリ知らせて良いのですね。」
「任せる。クラック自身が殺されないようにはしてくれ。王女殿下が王位継承後は王国経営に参画してもらわねばならないからな。」
モルフィネスの言葉にクラックは王宮からキューテンモルガンの軍に向けて取って返した。
(今王宮を飛び出して馬で駆けて行ったのは、ケーシーではないか。王女軍の内情を探ってもらう事を頼んだが、王宮に簡単に出入りしている様子・・・・・・やはり王女軍と何か繋がりが。)
キューテンモルガン説得の為、王宮から走り去って行くクラックの姿を皮肉にもヒルネーと共にゲッソリナに急行して来たキューテンモルガン本人が見送っていた。
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