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フデンはハンベエとさし向かって端座すると次のように述べた。
「ハンベエよ、本日を以てそちを免許皆伝といたす。ワシの知る限りのヒョウホウはそちに授けた。この十年、よくぞこの年寄りの道楽に付き合ってくれた。礼を申すぞ。」
「お師匠様、とんでもありません。私めの方こそ、どこの奴隷として売り飛ばされるか知れぬ境遇から拾い上げていただいただけでなく、武芸諸般の技を授けてくれた事、ご恩の報じようこそございません。」
「ふむふむ。そういってもらえると、この年寄りも骨折りの甲斐があったというものよ。しかしながらハンベエ、そちに免許皆伝を許しはしたが、そちの剣はまだ道半ばにしか届いておらぬ。と申すのも、ヒッキョウ、ヒョウホウは人殺しの技、あまたの敵を倒してこそ、その技が真に身に備わるのじゃ。とにもかくにも人を斬って斬って斬りまくらねば、真のヒョウホウは身につかぬ。千人の人を斬って後、悟るところあらば剣聖となろう。今の世は乱れ果てて、斬り殺して差し支えのない人間が満ち溢れておる。さればハンベエ、これより後は山を降り、修羅三界を彷徨(さまよ)いて剣の奥義を究るがよかろう。これは、新たなる修業のはなむけ。持って行くがよい。」
フデンは、そういうと、拳二回りほどの皮袋を取出し、ハンベエに差し出した。ズシリとした重みにハンベエが驚くと、
「金貨が入っている。浪費せねば3年や五年は食うに困るまい。」
とフデンは言った。
「このような物をいただきましては・・・・・・」
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