二 千人の果ても一人から

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「うわっ。」  ロキは突然、大声を挙げて立ち止まった。追い掛けてきたならず者も立ち止まった。  目の前に、別の男が立っている。  その男は、二十歳位の背の高い若者で、驚いた事に、既に長い刀を抜いて斜め下段に構えを取っていた。  前門の虎、後門の狼、進退極まっちゃったよと真っ青になったロキに、 「退(ど)いていろ。」  その若者は優しい声音で言った。  意外に優しげな若者の雰囲気に、取り敢えずロキは道の脇に寄った。 「なんだ、テメエは!」  ロキを追い掛けてきたならず者がそう言い掛けた時には、その若者は疾風の如くならず者と駈け違っていた。  ならず者の首が宙高く飛び、道に落ちた。しゃべりかけの顔のまま・・・・・・そして、首の無くなったならず者の体はバタッと倒れた。  若者はそれを確かめると、次には自分の刀の刀身をしげしげと見つめた。それから倒れているならず者の袖口で軽く拭ってから腰の鞘に収めると、何事も無かったようにゲッソリナに向かって歩きだした。 「まっ、待ってよ。おじさん。おじさんもゲッソリナに行くんでしょう。」  ロキは慌てて若者を追い掛けた。 「ああ、そうだが。」 「オイラと一緒に行こうよ。夜道は物騒だし。旅は道連れって言うしさ。」  若者はまるで一人で行ったら危ないから自分が一緒に付いて行ってやる、と云わんばかりのロキの口振りに若干苦笑気味であったが、 「それじゃあ、一緒に行こうか。」  と微笑んだ。邪気のない笑顔である。 「やったぜベイビィ!オイラの名前はロキ。おじさんは?」 「俺か。俺はハンベエ。」 「じゃあ、ハンベエ、ヨロシク。」 「ああ、ヨロシクな。」  若者はハンベエであった。
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