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柔らかい昼の日差しに 照らされて、和田義一(ワダヨシカズ)は日本総合高等学校の校門をくぐった。見上げれば眩しいほど曇りのない青空で、しかし冷たい風が頬を撫でる。目の前には真っ盛りな桜並木が一本道に喜びを撒き散らし、間隙を歩く新生徒やその保護者を祝福している。
「広いなぁ」
立ち止まった義一の横にならんで、炉端恭輔(ロバタキョウスケ)が感嘆の声をもらした。彼らは小さい頃からの友人だ。二人とも北海道から入学に当たって上京してきた境遇であり、よって大きなトランクを二つも抱え、その上ナップザックも背負っている。飛行機にはとても積めなかったため、船とバスを使ってここまできた。長旅による疲労はまだとれていない。
「こんなとこでこれから七年も過ごすのか……」
恭輔は顔をしかめて義一を見た。
「トイレを探すのも一苦労だぜ」
「トイレはどこにでもあるだろうよ」
「何処にでもあったって、こんなに広いとやっぱ困るぜ。ホラよ、実際にここから一番近いトイレはどこだ」
一善は愛想がつきて、目の前の青と赤のピクトグラムを扉に備えた小さな小屋を指差すと、荷物を引きずって校舎へ続く道を歩き始めた。
恭輔は己のバカさ加減にようやく気づいた様子で慌てて彼のあとを追いかけた。
「授業楽しみだな。よし、俺は今年こそ神の加護に目覚めてやる」
「お前が気合い入れても何も変わらないけどね」
「そんなことはないさ、この気合いにつられて神もその気になってくれるだろう」
そんな気合いで神の加護を貰えたら誰も苦労しないだろう。大体神に人格などという低レベルなものを持っているのかさえ疑問視されているというのだ。
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