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先生の話によると、会場の準備が整ったため、Aクラスから順番に吹奏楽部の演奏とともに入場するという。あれやこれやと注意があったが、義一は適当に聞き流していた。
義一はその間、緊張して仕方がなかった。
先程は恭輔にああ言ったものの、実際に多くの人が――とはいえ少人数であるが――中学から高校にあがると共に神の加護を顕現する。必ずしもそうであるわけではないものの、加護持ちの大部分はこれに当てはまる。しかも、それはある一日の半刻程度でぞろぞろと現れるのだ。それは言わずもがな入学式中のことであり、その最中に行われるある儀式が原因である。
〝天上審査”、これが儀式の名前だ。詳しいことは誰もわからないが、酒と米とを添えて篝火に自分の血を垂らすことで、煙に乗って蒸発した血を天上で神々が審査し加護を定めると言われている。古代から伝承されている儀式で、昔は短刀でスッパリ切り傷を付けたらしいが、今は注射器を使って校医が血を抜いてくれるらしい。
そのために、みんな一週間前から健康と食べ物に気を使い、貧血にならないように、少しでも神に気に入ってもらえるように努めるのだ。現に義一もその一人である。
何はともあれその儀式をメインに据えた入学式が始まろうとしている。義一は手をモゾモゾさせながら廊下に並んでいた。
「新入生一同、入場します。暖かい拍手を持って迎えてあげましょう」
大広間の扉から、アナウンスが漏れ聞こえ、並ぶ頭が一斉に入り口に向かうのと同時に、大きな両開きの扉が、ものものしく、奥に向かって開かれた。
眩い会場の照明が、暗さに慣れた目に突き刺さり、義一きゅっと目を細めた。明るいファンファーレと共に、先頭のAクラスが行進を始める。胸を揺さぶるようなリズムに、心はすっと軽くなり、期待にトキメキながら義一は自然と歩き出していた。
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