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「Aクラス、1番、荒川博(アラカワヒロシ)くん」
呼ばれたものから壇上に上がるよう指示を受けて、最初の一人の名前が呼ばれた。これが入学式最後のプログラム、天上審査だ。
すでに焼血の篝火は準備され、高い壇上で明明と威厳を持って揺れている。天井には専用の巨大な煙突穴があり、ファンで煙を吸い出しているらしい。煙突から出た煙が天まで昇るようだ。
義一は最初のひとりの一挙一動を目に焼き付けるように凝視した。緊張で握っている掌が湿気る。
荒川が遂に壇上に登りきった。校医の人が、消毒した注射器を手際よく腕に刺す。血を抜いて、傷口にガーゼを当てて、試験管に移した。試験管を荒川に渡して、注射器は係りの人が洗って消毒している。
荒川は緊張した様子で、ゆっくりと篝火に歩み寄った。傍らの米をひとつかみ投げ込み、酒を一杯ふりかける。「神に給わん」と言うと、炎は鮮やかな金色に変色した。
その瞬間、義一は胸にざわめきを感じた。吸い込まれるような、神々しい威厳を放つ炎は、まさに神の現れのようで、いいしれない感動が打ち寄せる。パチパチと爆ぜる音と、心臓の鼓動が、同じくらい大きく耳の中を支配した。
荒川は、きゅっと目を瞑ると、ゆっくりと試験管を傾けた。赤い鮮血がツーっと流れ落ち、火に触れた途端に霧散する。彼はじっとその状態から固まって動かない。
突如、動きのない彼を包むようにして、薄緑色の光が現れた。キラキラと尖ったシャボン玉のように風を起こし舞い踊る光は、驚き目を見張る荒川の頭上に集結すると、輝く一つの紋章となって空に浮いた。
「荒川博、野人神ホモス様の御加護を賜りました」
パリンと軽快な音と共に、紋章は砕け、荒川に降りかかり、消えていった。会場内は一拍のあと拍手に包まれる。彼は慌てて篝火に頭を下げると壇を駆け下り席に戻った。
義一はゆっくりとため息をつき、初めて自分が息を詰めていたことに気がついた。ふうっと心が軽くなる。なんだ、簡単じゃないかと少し安心した。
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