第一章・再会

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「毎度毎度なんでこんなにひろいのかね」  境内を見て思わず美和幸信は呟いた。  少しふるびた神社。一人で掃除するのは面倒臭い。 「あのババア。どんな手で摩り替えたんだ?」  幸信は祖母の美和杏子とポーカーにて掃除する決着をつけた。本来なら圧勝の予定だった。誰にも負ける訳がない。何故なら幸信がカードを摩り替えていたからだ。キングの4カード。しかし、結果はロイヤルストレートフラッシュで見事に返された。イカサマが卑怯だとは幸信は思ってない。元々、承知の上でやってるし。何より、勝負事を運で済まそうという方が間違ってる。修練して学んだ技術こそ競いあいがある。 (舞がいればな)  思わずため息をつく。舞は幸信の妹で美和家ににつわかしくないほど。品性良好で慎み深く。汚れを知らない。料理以外の家事を喜んでこなす。幸信の自慢の妹だ。 「少し息抜きするか」  幸信は箒を置いた。  境内の墨の木に隠してあるように吊っているサンドバック。  幸信はそれを思いきり叩く。勢いよくサンドバックが揺れる。  そして、何度も叩き、そして蹴る。形の基本は空手に近い。ほぼ、実戦で鍛えてきた我流だ。 「ヒューーー」  突然後ろで拍手とともに聞こえてきた。幸信は驚くことなく振り返る。 「ロードワークか。ボクシング部のエースは大変だな。新守」  新守定良。ボクシング部のエースでプロのライセンスをもち。期待の新人として有名な男だ。幸信とは中学からの友人だ。 「う~ん。君がボクシング部入ってくれたらエースの看板おろせるんだけどね」 「おいおい。冗談はやめとけ。俺がボクシングなんかつとまるわけないだろう」 「そんな事ないさ。ほら」  定良は素早く踏み込み。全身の体重をのせてサンドバックを叩いた。鈍い音と共に大きくサンドバックがゆれるが。 「ほら、これだけ強くやっても君の方が上だ」  幸信の揺れに比べたら今一つ足りない。 「全く、非常識だよね。これだけ練習しても追い付けないなんて」 「非常識なんて、俺なんかはまだマシだ。本当に非常識なのは一樹さんだ」  神野一樹。幸信が唯一尊敬する男の名前だ。非常識の固まりみたいな人で、幸信ですら片手であしらわれる。 「まぁ、一度戦ってる所みたことあるけど。あれは改造手術うけているって言われた方がまだ納得できるね」 「あぁ、ゲームから出てきましたって言われても納得できる」
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