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『……いかがなさったか。一体何に動揺しているのだ』
『――っ、動揺など……!』
「エランさん! こんなの間違っている! あなたもそう思っているはずだ!」
セトラスが訴え掛ける、その横で、
「……」
結衣は、静かに涙を零していた。
「ゆ、結衣……」
「……」
その両眼からとめどなく流れ、頬を細い筋を成して伝い落ちていく、その泪は、どんな意味を含んでいただろう。
母と十二年越しに再会した嬉しさか。
母が敵となっていたことへの憤りか。
母と対峙することになった悲しさか。
その全て、あるいは、それ以上の意味があったのかもしれない。
「エランさん!」
セトラスが、再三呼びかける。
ついにそれに奴が反応した、その瞬間、
『……私は“エラン”ではない!』
右手を前にかざしたその反動で、被っていた黒いフードが落ちる。
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