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零は、その前髪に留めてあった青いヘアピンを取る。
『……かつての色は棄てろ』
ヘアピンを、背後に投げる。
するとそれは、何かに突き動かされるようにして、虚空間の出口へと飛んだ。
それに零は気付いていない。
『……その装束も、俺は嫌いだ。新調しよう』
零にとって、清冽な色である“淡色”は、最も忌み嫌う色の一つだった。己の纏うマントのようなものが、漆黒に埋め尽くされているのもそのせいだ。
今や、エラン、否、メアに、拒否の意志は現れない。
彼女は既に、自我を確立したが、それは、“死”の概念上のものであり、以前のものではない。
それでも――
『……行くぞ』
『はい』
――零でさえも、拭いきれないものは、あった。
それは、彼女の心底にあり、決して忘れないほどの、強力な記憶。
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