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「──ママのだ」
その小さな手には、一つの青いヘアピンがあった。
彼女もよく知っている、エランのお気に入りのもの。
「……?」
結衣はただ、疑問に思いながら、青空を見上げた。
そこに、雲は一つとしてない。
流れる風が、彼女の頬に吹きつける。
「……ママ、かえってきたのかな?」
ようやく結論を見つけ出し、うきうきとした表情で、居住している中央部へと走り出した。
今ならセトにも負けないのに──
と彼女は考えたが、すぐにただただ足を速く動かすことだけに思考を向ける。
その時、握りしめたヘアピンの重さを、彼女は意識していなかった。
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