Ⅴ.乖離

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「――でもね」 声のトーンを少し下げて、彼女は続けた。 「元の速さに戻ったのは、本当に大臥のおかげなんだよ」 それはいつか、俺が彼女を励ましたことを指すのだろう。 「ありがとう。ホントに……」 微笑を浮かべながらそう言われ、目が泳いでしまう。照れくさいじゃないか。 「――うん、これで後は左手首だけね!」 いつの間にか右足首も完全に再生されていた。足先がとても楽になった感覚だ。極度の痛みから解放されたからだろう。しかしこれでさえも偽の痛みである。もし本当の痛覚に襲われていたら、と考えると、ぞっとする。 そのまま左手首にも光を二人で当て、十秒ほどで輪郭ができる。 その時、向こう側で先と同じ爆音が轟き、光が拡散した。 光が退いた後、向こうから、 「大臥っ、大丈夫か!」 セトラスがこちらに走り寄ってきた。その後ろからオーディンさんとヘーニルさんの姿も見える。 「もう治るところよ!」 「それは良かった! さすがは結衣だな」 そう言うと彼は、道化師とセイラのいる方向に向き直り、アロンダイトを構えた。
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