Ⅴ.乖離

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「ここまでだ。おとなしくセイラを解放しろ」 その隣に、オーディンさん、ヘーニルさんが並び、やはり各々の武器を構えた。奥でセイラは、心配そうな顔を浮かべている。 『……どうしてこうも人間は短絡的に考えるのか、甚だ疑問だ』 その発言が終わると同時に、俺の左手首も再生が完了した。結衣に一言、「ありがとう」と言ってから立ち上がり、二人で防護陣の外に出る。 『ここまで来たのだ、最後まで見てくといい』 「……ふざけるな。貴様の遊戯に付き合っている暇はない」 オーディンさんが、威嚇するような口調で反論する。その間に、ようやく俺は、ティルヴィングを両手で持ち、前に向けた。 しかし相手は怯むことなく、むしろ嘲りを含めて、 『……やれやれ。ギャラリーにはマナーを守ってほしいものだ』 そう道化師が言い放った、その刹那、 ―――― 「っ!?」 そいつの横に、黒い噴煙が渦を巻いて現れ、 「なっ……!」 その中に、一人の人物が佇んでいた。 黒い装束、暗めの茶髪の直毛のセミロングヘア。被られた黒いフードから垣間見えるその瞳は赤い。
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