Ⅴ.乖離

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「こんなことが……」 隣にいたセトラスが、歯ぎしりと共に、 「こんなことがあっていいものか……!!」 頭を抱え、悲痛に訴えた。 「結衣の……お母さん……?」 そう言う他なかった。口内の水分が、一気に消える。じわりと、掌から汗が染み出す。 整理ができない。頭の回転の遅さがただただ恨めしかった。 ようやく理解できた頃、俺の脳は、今度はその理解を拒絶しようとしていた。 こんな再会、あってはいけない。 あってはいけないのに――。 「エラン! 一体何が……!」 オーディンさんが叫ぶ。“エラン”とは、結衣のお母さんの名前なんだろう。 それに対して“メア”は、 『……』 ただ黙りこくるのみ。 いや、絶句していたのかもしれない。 その双眸(そうぼう)は、心なしか縦に開いていたように思えた。
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