Ⅴ.乖離

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「……」 “メア”の横に道化師(ピエロ)。その後方二十メートルほど先に、セイラが架されている。 「(なんとかメアの気を引いてくれる人がいたら……)」 見たところ、セトラスとヘーニルさんは必死に抗おうとしているが、動けるような感じでは全くない。一方、オーディンさんは、手のひらの白い光を自分の胸部にあてている。恐らくこの中では彼だけが、このレストレインからいち早く抜け出すことができるのだろう。結衣は、 「……」 動けるのか動けないのか、特に抵抗をする素振りもなく突っ立っている。……いや、仮に動けたとしても、この現実を前に俊敏に動くのは無理だ。 『もうまもなく作品は真の完成を遂げる。そこでしかと見届けるがいい』 道化師(ピエロ)が言う。こいつはオーディンさんが動き出すことを知らない。そしてメアは、 『……』 やはりオーディンさんの方に赤い瞳を向けている。知っているんだ。レストレインが通用しない相手だってことを。 「(オーディンさんが動き出すその瞬間、レイズを用いれば……)」 道化師(ピエロ)の真横を通り抜けて、セイラの元に到達できるかもしれない! しかし、チャンスは一度きり。 失敗は、許されない――。
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