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エランが茫然と立ち尽くす隣で、敵は、引き抜いた槍に付着した血液を、忌々しそうに二度、三度と薙ぎ払った。
「――エランだけ、は……」
かすれた声で、激しい吐血を伴いながら、
「エランだけは、見逃して……くれ……っ」
弱々しく、しかし意志は強く、彼が訴える。
『死に際の分際で何言ってやがる』
群青の炎を操る者は、その槍で再び雄志を刺そうとしたが、
『――止めろ』
不意に、その者の背後から、静かでやや低い男声が聞こえてくる。
『っ! 主……』
『下がれ、スルト』
スルトは、すぐにその指示に従い、代わりに主が、血溜まりの上にうつ伏せのような体勢で倒れている雄志の前に立ちはだかった。
「お前、は……」
『俺は零。この世界を治める者だ』
淡々と、彼にそう告げる。
その双眸は、吸い込まれたら二度と出てこられないような黒色で、口元は微かにつり上がっていた。
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