綾子

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「ああ。」 夫に声をかけて家を出る綾子。 できるだけ表に出さないようにしていたが、 ついつい心が躍ってしまう。 京都へは16時の新幹線で移動するので、 浩一からは15時に会社を出れるようにしてほしいとの指示を貰っている。 前日まで頑張ったおかげで、 当日はそれほど仕事が溜まっていない。 逆に15時までの時間を持て余してしまうほどだった。 「綾子君、そろそろ行こうか?」 「はい!」 浩一の後ろを歩く綾子。 京都まではJR線を乗り継いで品川から新幹線に乗る。 品川からはのぞみで2時間14分の旅路だ。 移動中、プレゼン資料に目を通す浩一の隣で、 京都の観光ガイドをめくる綾子。 浩一の邪魔をしないように気を付けつつも、 ついつい浮かれてしまう。 「おいおいww完全に観光気分だなww」 「いいじゃないですかww浩一さん、土曜日ここ行きません?」 「どれどれ…って印が付いているの食べ物屋ばかりじゃないかwww」 「当たり前ですよwwせっかく京都に行くなら京料理を満喫しないとwww」 他愛もない会話をしながら、 あっという間に京都に着いた。 宿泊先は浩一が事前に手配していてくれた京都駅前のビジネスホテルだった。 フロントに到着すると浩一は、 「シングル2部屋を予約している佐藤ですが。」 とフロントに声をかけた。 「少々お待ちください、佐藤様ですね?…佐藤様、本日はツイン1部屋で承っておりますが?」 「そんなはずはない。部下から変更の連絡を入れたはずだ。」 「申し訳ありませんがそのような履歴がございません。」 「ではシングルを今から予約させてくれ。」 「あいにく本日は満室でして。」 どうやら浅田と出張が決まった段階で宿泊費を削減するためにツインを予約し、 浅田が体調を崩した時に入れた連絡がうまく伝わっていなかったらしい。 「まいったな…」 頭を抱える浩一を見ていると気の毒になり、 「私はツインでもいいですよ?」 「しかし…さすがにそれは…」 「そんな年齢じゃないですからww。ツインでいいので鍵をチェックインの手続きをお願いします。」 逡巡している浩一を尻目に、 綾子はさっさとチェックインしてしまった。 「本当にいいの?」 「まさか襲おうとしてるんですかww?でも浩一さんファンに知られたら殺されちゃうので誰にも内緒ですよ?」 「えっ?俺にファンがいるのww?」 この時どうにかして2部屋を確保していれば、
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