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「なぜ私たちは授業を受けているの?」 「なぜって、今は授業中だからじゃないかな」  彼女の唐突な質問に僕は小声で答えた。彼女の気まぐれはいつものことで、まるでひとり言のようにこぼれた彼女の言葉を僕が拾うのも、いつものことだった。  たとえば「お腹が空いたわ」と、彼女は言った。そりゃあ、朝ご飯を抜いたりしたら、お腹も空くだろう。「だってふとっちゃうじゃないの」そんなの誰も気にしないよ。「私が気にするのよ」彼女は笑った。  歴史を勉強しているときには、「なぜ、人は戦争をするのかしら」と、ずいぶん難しいことを考えているようだった。「武器なんて捨てて、たくさん美味しいものでも作ればいいのに」それは違うと思う。「どうして?」だって怖いから。いつ余所の国が襲ってくるか分からないわけだし。「でも、みんなが平和を望んでるはずよ。仲良く暮らせるはずよ」難しいことは、よく分からないよ。「そっか」  それより、この国名全部、覚えたよね。「覚えてない」ほんとうに君はカタカナ苦手だね。「カードゲームが苦手なだけよ。ナンチャラドラゴン、ナンチャラデビル、意味不明。そろそろ卒業したら? デュエルマイナーズ」そんなことしたら、僕の唯一の特技がなくなっちゃうじゃないか。あと、マイナーズじゃないし……。「スポーツでもしなさいよ。スポーツ。サッカー・バレー・バスケにテニス。ゴルフでもいいわ」運動は苦手でね……。「残念」  別に僕だって、最初から彼女のひとり言に付き合っていたわけではない。毎日のように隣で呟かれる、ひとり言をきいていた僕は、あるとき彼女と視線を交わらせてしまった。 「授業、つまらないわね」  彼女は僕の眼を見据えながら言った。  僕は急になんだか、何か言わなければ、という思いに駆られて間抜けな返答をしてしまった。 「ひとり言?」 「あのね、あなた、ひとり言? と訊いている時点で会話になってるわよ?」 「あ。」  まったく、そのとおりだった。 「それにね……私はあなたに話しかけていたのよ」  彼女の口元は笑っていたが、とても悲しそうに見えた。
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