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「なぜ私たちは授業を受けているの?」 「なぜって、今は授業中だからじゃないかな」  当たり前すぎて面白味のない回答に彼女は満足しなかったようだ。 「そういうことじゃないのよ」彼女はうーん、と唸った。 「どういうことだい?」 「だから、私たちが今勉強することに意味があるのかってことよ」  ああ、そういうことか。 「つまり、授業がつまらないって事だね」 「そうよ。悪い?」 「いや」  確かに、退屈な授業。その無意味にも思えるような時間は、ただひたすら僕たちの英気を奪っていくかのようだ。  同じことを考えているであろう彼女は、周りを見渡して言った。 「ねえ。次の時間抜け出さない?」 「さぼるのかい? 次は美術だよ」  彼女は絵を描くことが好きだった。どうして美術部に入らずに、僕なんかと放課後にボードゲームやらカードゲームやらに興じているのか不思議なくらい。  実際のところ、以前は美術部に入部していたらしい。そんな彼女が将棋部の入部届けを持って来た際には、部長は大変驚いていた。もちろん部長というのは、唯一の部員であった僕のことなのだけれども。  とにかく彼女の絵は美しかった。    将棋にあきたとき、僕らは決まってカードゲームをしたのだが、そのカードに描かれた怪物たちを彼女はささっとノートの上で闘わせる。天使や悪魔やドラゴンたちがまるで本当に生きているかのように殺し合っていた。しかし、そんな絵を描き終わってすぐ、びりびりに破いて捨ててしまうことを、僕はもったいないと思っていた。 「次の時間は自分の似顔絵らしいじゃないか」  なんでも描ける彼女の一番の得意分野は、人だった。 「私、自分の顔嫌いなの」  女の子というのはよく分からないものだな。
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