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 最初の四枚は、一人の若く可愛らしい女性の絵だった。  淡い色調の、繊細で優美なタッチだ。 実に丁寧に描かれている。 そのうちの一枚は、ゴルドー本人が私に見せてくれたのを覚えている。 これらの絵は、キャンバスからあふれ出すような輝きを持っていた。  最後の一枚は、白のキャンバスに黒の絵の具だけを使って、筆をめちゃくちゃにふるったような印象を覚えるものだった。 そこに描かれた女性の姿は、前の四枚と違って決してかわいらしくもなく、どんな容姿なのかもわからない。 しかしただ、猛烈な怒りに満ちていることだけがはっきりわかった。 この絵は見覚えがなかった。  ふと、その当時ゴルドーが私に話したのを思い出した。 「この絵ができたら、結婚を申し込むんです」  最初の若い女性の絵はもう一枚あるはずだった。 未完成の絵を私に見せながら、その時のゴルドーは笑っていた。 しかしその絵は、どうやら展示してないようだった。  白黒の女性の絵より後ろは、全て原色を多用した、ぎらつくような荒っぽい絵ばかりだった。 一見無秩序に見えたが、しかし絵全体はそれぞれに不思議なバランスを保ち、違和感がなかった。  それらは、何かを紛らわそうとしているのか、何かをかき消そうとしているのか、それとも何かを壊そうとしているのか。 それらから伝わる印象は共通して、怒りや悲しみ、あるいは絶望や狂気、あるいは死などと表現されるものばかりだった。
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