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熱帯のスコールを思わせる激しい雨が純白のシャツを濡らし、下着を着けてない胸に纏わりつく生地の不快感はぬかるんだ地面と相まって、私の足取りを重くしていく。
何故この道を歩き、何処へ行こうとしているのか霞む記憶の中に、その答えはなかった。
あるのは前へ進まなければならないという意思。
それだけだ。
鬱蒼とした木々の上から覗く白い塔へ、この道が続いている事は分かる。
そこへ行く事がきっと答えなのだろう。
暗い森を抜けると眼前にそびえ立つ塔は、全てが人工的と言うより巨大な大木の中身をくり貫き造られているようだ。
豪雨のせいもあり遠目には気が付かなかったが、塔の入口付近にはテントが張られ一人の老婆が露店を開いていた。
丸椅子に腰掛けた老婆は、日本人離れした深い彫をした顔立ちで左右の目の大きさが釣合わず奇怪な面容をしている。
私が声を掛けるのと同時に老婆の口から耳障りな雑音めいた声が発せられた。
「お前が望むモノはこの塔の中にある」
「私が望むモノ?」
自分自身でさえこの場に居る理由も目的もわからないのに、この老婆が何を知っているというのだ。
「お前は、お前の望む答えを得る為に自らの意思でこの場所へ来た」
「自分で来たというのですか?」
何も思い出せない。
自分の意思で来た? どうやって?
ここはいったい……
「その答えは、この塔の最上階にある」
下から見上げると遠目で見たよりも更に巨大に感じる。
「これを登れと言うのですか」
下卑た笑いは、老婆の貌をより一層醜悪なものへと変えていく。
「えへへへ。行く行かないはお前の自由。回れ右して今来た道を引き返すも自由」
このまま引き返しても何の当てもない。ならば、行ってみるのも良いのかもしれない。
「分かりました。騙されたと思って行く事にします」
「その前にここにある物を一つだけ持っていくがいい」
そう言うと粗末な木製の台に並べられた品物を指さす。
そこには四つの物が雑然と置かれていた。
麻のロープ。
錆びた剣。
巾着ほどの袋。
缶。
袋を手に取り中身を確認すると中には粗塩が入っている。
缶の注意書きには『人に無害な殺虫剤』とある。
何の変哲も無いロープにずっしりと重い鉄製の剣は大根も切れそうにない。
どれもこれも、ガラクタにしか見えない。敢えて選択するのなら、剣。
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