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いや、ロープか。
この先にあるものが何か分からない以上、選択のしようがない。
そうだ。ロープだ。
窓から脱出する為のものか。
待て、これは違う。
どう見てもこの塔の最上階から地上まで届く長さはない。
暫く考えた後、剣を手にした。
無難な選択だ。
何らかの危険があるなら迷わずこれだ。
身の危険さえなければ、後はどうにでもなる。
「これにするわ」
「今ならまだ交換する事は出来る」
「これで、構いませんよ」
「ふぇへへへ。そこの階段から登ればよい。お気をつけて……」
奇怪な老婆の存在よりも、今はただ答えが欲しかった。
白い石造りの階段とは違い、建物内部の壁は葉脈のような有機的な脈打つ管が走っている。
中は生暖かく湿度が高いが、雨で冷え切った身体には心地よかった。
永遠に続くかと思われるほど単調で、音のない螺旋状の階段は突然終わった。
目の前には見事な彫刻で装飾された扉がある。
取手の無い、天井まである大きな扉を押し開いてみると、広間の中央にある椅子に一人の少女が腰を掛けている。
数歩前に歩み出ると扉は大きな音をたて閉じてしまった。
私はそのまま少女の元へ歩を進めるが、気付かないのか、何の反応も示さない。
間近で見る少女の肌はガラス細工かと見紛うくらい繊細で透き通り、長く黄金色の髪は極上のシルクの様に滑らかで潤いを帯びている。
その唇は赤く熟した果実。頬は桜の花びらで出来ているようだ。
「あなたは一体誰なのですか?」
自分の発した言葉が間の抜けた問いに思われた。
閉じていた目がゆっくりと開いていく。
ああ、想像通りの大きく美しい瞳は目の前の私の醜い姿を、鏡のように映し出している。
思わず顔を背けると同時に、私の聴覚を刺激する音が扉付近から聞こえてきた。
粘度の高い液体をこねくり回す音。
その音を発するモノの姿形を見た瞬間、私は選択を誤った事を悟った。
扉と扉の間、扉と天井や床の隙間から染み出すその生物は、次第に集積して巨大化していく。
見る間に子牛程の大きさになると、透明だった身体は人肌を想わせる色に変色をする。
滑った皮膚からは粘液が滴り落ち、蠕動(ぜんどう)運動を繰り返すヒダは充血し赤みを帯びてきている。
蝸牛の角を連想させる触覚は、大きさと太さを増し、天井へ向け屹立した。
触覚の先からも止めど無く、白い粘液が溢れ出してくる。
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