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しまった。
持って来るべきは殺虫剤。
それともなければ塩だ。
この巨大なナメクジを倒し少女を連れ出せという事なのだろうか。
何故? 何の為に?
この少女は一体何者?
目の前のナメクジは徐々にその数を増し近づいてくる。
大小様々、色合いも微妙に違っている。
このままでは扉から外へ出ることが出来ない。
剣を握りなおすと一番巨大なナメクジの身体に深々と突き刺してみた。
予想通り手応えはなく、剣を抜いた痕も直ぐに修復されていく。
痛みを感じないのかジリジリと詰め寄る速度に変化は見られない。
椅子に座る少女の手を握り逃げるように促そうとすると、少女はその手をふりほどいた。
ひんやりと湿った手は、柔らかくその感触だけが手の平に残っている。
「行こう。ここに居てはいけないわ」
行く宛てどころか、この部屋から出ることさえ困難な状況なのに、何故だかこの少女を守らねばならないと思えた。
「いいえ。何処へも行かない。私はこの部屋から出ることは許されないの」
力強くはあるが、私の心には少女の悲痛な叫びにも聞こえる。
剣を両手で握りナメクジに相対すると震える触角目掛け、横一文字に振り抜く。
僅かな感触と引き換えに触覚は床の上に落ちると暫くはのた打ち回り、粘液を撒き散らしながら断末魔の声を上げたかのように動かなくなった。
その様子を眺め油断してしまい、長く伸びる触手が左右の視界から現れたかと思うと、反応する間もなく両腕を捉えられてしまった。
粘液のせいで剣を床に落とす。
両腕を拘束され身動きが取れない。
別の触手が首と口を塞いでいく。
胸に絡む触手が先端の突起に触れる度に、身体中の力が抜けていく。
太腿にも触手が絡み付き一番敏感な部分に触れた瞬間、そこから全身へ快感という電流が走った。
「やはりあなたは不完全な存在ね」
何を言っているの?
背後にいる少女の表情は確認する事は出来ないが、そのゾッとする様な冷たいものの言いようは、とても子供とは思えない。
「私とあなたは、一緒にこの部屋を出る事は許されないの。二人は陰と陽。同時に存在する事が出来ない」
どういう意味?
「あなたは私の存在に気付いていた筈。そう、生まれ落ちた瞬間にね。本来は私が生まれるべきだったのに、あなたが邪魔をしたの」
私はこの少女に見覚えがない。
あなたは何者なの?
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