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―3日後
「名前、思い出した?」
「……ううん」
椅子に座ったラナの問い掛けに少女は首を左右に振る。少女は驚異的な速度で回復し、既に少しなら立つことが出来ていた。しかし今はベッドで上半身だけを起こしている。
「そっか…。
…じゃあさ!この前お姉ちゃんが言ってたマトって名前!貰っちゃえば?」
「…?」
ラナの提案に少女は首を傾げる。そんな少女にラナはこれぞ名案だ、とばかりに勧めていく。
「だがら、今からお姉ちゃんの名前はマト!マトお姉ちゃん!…どう?」
ラナは少女の顔を下から覗き込むように窺う。少女は少し茫然とした後、ラナの方を向いた。
「マト…私の…名前…」
「うん!」
「マト…マト…私はマト」
少女――マトは胸の前で手を組み、何度も何度も新しい自分の名前を繰り返す。大切に、なくさないように。
「えへへ…。
マトお姉ちゃん、明日にはもう普通に歩けそうだしね。明日この村の皆を紹介するね?」
「うん」
マトは頷いた。心なしか、少し頬の筋肉が緩んでいた。
「あ、笑った?」
「え?」
「笑った!今絶対笑ったよ!えへへ!初めてマトお姉ちゃん笑ってくれた!」
蝋燭一本の灯りが照す部屋の中、ラナは太陽のように眩しい笑顔をマトに向けた。
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